ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
中川晃教×福田雄一 インタビュー

ルネサンス時代のイギリス。劇団を経営するニックとナイジェルのボトム兄弟は、時代の寵児シェイクスピアに対抗するために、予言者ノストラダムスのお告げに従い、世界初の歌って踊る“ミュージカル”を作ろうとするが……!?
古今東西の演劇、ミュージカルをパロディにし笑い倒しながらも、演劇愛、ミュージカル愛を高らかに歌い上げる大人気コメディ・ミュージカルが7年ぶりに再演される。

初演に引き続き主役のニックを演じる中川晃教と、演出の福田雄一に作品の魅力や見どころを聞いた。

――約7年ぶりの再演です。お二人とも再演を熱望していたとか。

[福田] 初演が終わってからも『グリーン&ブラックス』(WOWOW)の収録でアッキーと会うたびに、「『サムシング・ロッテン!』やりましょうよ」って言ってたんだよね。でもコロナ禍に突入しちゃってなかなか実現しなかった。やっと上演できます。僕とアッキーにとっては、けっこう念願だった。

[中川] コロナ禍ってやっぱり辛かったじゃないですか、色々なエンターテインメントもストップしてしまって。こんな時こそ『サムシング・ロッテン!』だと思っていました。この作品で僕が演じるのは、綺羅星のように現われた時代のスター・シェイクスピアに対し、羨ましさを抱いている、しがない作家のニック。どうしたら自分もああやって輝けるのだろうと思っている人物です。彼の胸中のように「今はまだ冬の時期かもしれないけれど、きっと春が来る」と思える作品だったし、福田さんと僕らみんなのミュージカル愛が炸裂していたし、「きっとまたみんなで再会できる日が来る」という思いも重なって、再演を熱望していたところがあります。やりましょうよと言い続けて、やっとここまで辿りつけました。

[福田] 言い続けると叶いますね。

[中川] 本当に。でも7年って、あっという間でしたね。

[福田] 初演が昨日のことのように思い出せますよね。


――お二人のそもそもの出会いは。

[中川] シアタークリエの楽屋口で立ち話をしたのが最初です(笑)。僕が『ジャージー・ボーイズ』の舞台稽古をしている時だったと思う。まだ仕事をご一緒するなんてことはまったく決まっていない時に声をかけてくださって。

[福田] 僕のアッキーファン歴は割と長いので! 『モーツァルト!』は僕が観た時はもう(山崎)育三郎くんになっていて、アッキーでは観られていないのですが。でも初演のCDを買って聴いたら、明らかにこの歌は普通とは違うぞと思い「これ、誰!?」と奥さんに聞いたら「中川晃教さんだよ」と教えてもらった。そこからもう、毎日アッキーの『モーツァルト!』のCDを聴いていました。この上手な方に会いたいとずっと思っていた。

[中川] 初めてお仕事をしたのはやはりグリブラ(グリーン&ブラックス)ですかね。グリブラは色々な意味で、ミュージカル関係者の交差点でしたね。

[福田] そうだね。グリブラでお会いしたら、まあ自由で、驚きました(笑)。(井上)芳雄くんもずっと「アッキーは自由だな」って言ってた。僕は作品の中で自由に遊んでくれる人が大好きだから、たぶんあの頃からアッキーとコメディをやりたいと思っていたのだと思う。『サムシング・ロッテン!』は本当にうってつけのものが来ましたよね。綺羅星のようなアッキーが、売れていないダメ男を演じたら面白くしてくれるんじゃないかと思って。実際、グリブラで経験したあの自由な感じをそのまんま舞台に乗っけていただけたので、本当に楽しかったです。


――お互いの魅力はどういうところに感じていますか?

[中川] 凄い方です。僕は音楽やミュージカルの世界で仕事をしていますが、福田さんはそことは違う、映画という一つスケールの大きな世界で戦っている方。一方で福田さんはミュージカルが大好きで、ミュージカルを作りたいと思っていらっしゃる。そこが僕にとって、福田さんと一緒にやりたいと思う部分でもあります。前回の一回限りで終わらせたくないと思ったし、福田さんも「もう一回やろう」と思ってくださったからには「新しい『サムシング・ロッテン!』を、新しいニックを作らなければ」と思うし、それはプレッシャーに感じるところでもありますが、またやりたいと思ってくださったことを信じてやっていきたいです。パートナーと言ってもいい、大尊敬する演出家です。

[福田] ミュージカル俳優さんって、私生活が透けて見えない方がいいところもあるじゃないですか。生活感を感じさせないと言うか、現世の人じゃないみたいな。だって黄泉の帝王を演じなくてはいけなかったりしますしね。アッキーもそういうところはあるんですが、このニック・ボトムという役をやってもらった時に、ものすごく人間味を出してくれた。“僕らのところまで降りてきてくれた”感があって、だからアッキーが大好きなんです。ニックってシェイクスピアに対して「アイツは売れているから大嫌いだ」と言うんですよ(笑)。そういう気持ちは、役者さんが僕らの目線まで降りてきてくれないと伝わらないじゃないですか。「言うても、あなたカッコいいよ」「全然売れない作家じゃないじゃん」となったらそれまで。でもアッキーはちゃんと売れない劇団の座長になってくれたというのが僕はすごいことだと思います。だってモーツァルトとか、フランキー・ヴァリをやっていた中川晃教ですよ!? これをやれる俳優は実は稀有だと思う。僕は単純に、あれをもう一度観たい!


――そんな中川さんが演じる、売れない劇団の座長であるニック・ボトム。どんな人物ですか?

[中川] 劇団を経営していて、劇作家でもあるんだけれど、実は才能があるのは弟のナイジェルの方。今回改めて台本を読んでいて、ニックはリチャード二世っぽい人間じゃないかなと思い始めています。というのは、ナイジェルが脚本を書いた『リチャード二世』の劇中劇から始まるんですよ。その中に「墓場や蛆虫や墓碑銘のことを話すとしよう」というセリフがある。僕は初演の時からこのセリフが覚えられなくて(笑)。

[福田] 前後もないから、意味わからないもんね。「意味がわからないけどセリフを口にしている」というシーンだからそれでいいんだけど。

[中川] そう、これはそれでいいのですが、役者のサガとしては意味を身体に入れないと喋れないんです。で、改めて調べたら、要は自分の小ささに気付いた人間のセリフなんです。つまりリチャード二世は、自分は王として生まれてきたんだけど、王としての器がないと悟っている。ニックの姿もそこに重なります。時代はルネサンスで、お手洗いは水洗になり、時代は新しいものがどんどん主流になっている。演劇も新しい何かを考えなければいけない、その考えにニックは固執して焦っている。今回はそういうところを導入として演じられたらいいなと思っています。

[福田] ニックは“ミュージカル”というアイディアをノストラダムスから与えてもらうまで、ずっとイライラしている。「新しい演劇はミュージカルだ」と言われ、一気にやる気になるけれど、また2幕で逆転されたりする。本当に感情の起伏の激しい役です。僕は作品を作る時に一番大事にしているのは、お客さんに登場人物を「頑張れ」と思ってもらえるということなんです。応援できないキャラが一人でもいると僕のコメディは崩壊する。初演の時、そこをアッキーが背負ってくれて、みんなが応援できるニックにしてくれた。だから初演が僕にとってすごくいい思い出になっているんです。


――ニックのライバルであるシェイクスピアは、今回は新しく加藤和樹さんが演じます。初演の西川貴教さんとはずいぶんまた雰囲気が変わりそうですね。

[福田] カズッキーはめちゃくちゃ面白い子ですよ。とんだ天然さんです(笑)。実はお笑いも大好きですし。今回の出演のきっかけは『ビートルジュース』の初演に来てくれて、だいぶスクロールしなければ読めないほどの長文の感想を送ってくれたところから始まっています。「面白かったけど、僕は(主演の)ジェシーくんみたいなことはできないからすごく悔しい、でもやっぱり僕は福田さんのコメディ・ミュージカルをやりたいという気持ちが強くなりました」という内容でした。『サムシング・ロッテン!』の再演が決まり、僕は真っ先にカズッキーの顔が浮かんだんです。シェイクスピアはナルシストだけど、2幕ではものすごくボケないといけない役。和樹くんがナルシストをやってくれたらめちゃくちゃ面白いじゃないですか。それで「再演するんだけど、シェイクスピアやってくれないかな」とカズッキーに直接LINEした(笑)。そこから事務所さんがスケジュールを調整して出演が実現したのですが、カズッキーはずいぶん暴れてくれるんじゃないかなと期待しています! だって2幕のトビー・ベルチ(シェイクスピアが別人に化けてニックの劇団に潜入する)は好き勝手作っていいキャラクターじゃないですか。

[中川] 西川さんは子役として出てきていましたね。あれは西川さんだったからですよね。

[福田] そうです、西川くん、出てきたら小さかったから(笑)。

[中川] だから子役という設定になったんですよね。今回はそういう意味ではどうなるかですかね。どんな劇団員として出てくるか。

[福田] 何に化けてくるか、ワクワクするでしょ(笑)。一方で1幕で『Will Power』を歌うところなんかは確実にナルシストとして出てくる。1幕ではバリバリのナルシスト、2幕でそれがガチ崩れする……というのは、西川くんよりもブロードウェイでクリスチャン・ボールがやった感じに近くなるんじゃないかな。西川くんはバラエティが上手い方なので最初から“オモシロ”を出してきてくださいましたが、カズッキーは1幕と2幕のギャップを上手く使ってくれそうな気がする。

[中川] 僕は今から想像して一人でニヤニヤしています(笑)。僕たち、今年は『フランケンシュタイン』であんな(ドロドロした関係性の)役を演じたのですが、そこにはやっぱり愛があった。不思議なのですが、和樹さんは相手役として、対峙する人が見たいものに上手く変わってくれるんです。そして核となる部分が通じ合った瞬間、一人ではできない芝居ができたりする。しかも僕の演じるニックは落ちぶれていく役で、和樹さんの演じるシェイクスピアは優等生。僕らがこれまで演じていた役からしたら逆のような関係性です。『フランケンシュタイン』とも鏡合わせのようで、どうなっていくんだろうとドキドキしています。

[福田] (石川)禅さんのノストラダムスも楽しみだよね。禅さんは僕が(山口)祐一郎さんと作った『エドウィン・ドルードの謎』を観に来てくれて、それは祐さんが客席をバッカンバッカン笑わせる作品で、その時に「山口祐一郎をあんな風に使う演出家は初めて見た。本当に驚きました、いつかご一緒しましょう」と言ってくれたの。あれを観た禅さんだから、ノストラダムス……ノっさん、だいぶ暴れると思います。それに対応するアッキーは大変だと思うよ。

[中川] 僕は皆さんより1年先輩なので……頑張ります!


――ところで、すでにお話に出てきていますが、クリエイターの苦悩を描いた話でもあります。福田さんはニックとシェイクスピア、どちらに共感しますか?

[福田] どちらにも共感できるんですよ。僕は学生時代からずっとブラボーカンパニーという劇団をやっているし、今もやっていますが、ぶっちゃけお客さんはあまり来ない。色々な仕事をやっていますが、僕の自分の認識は福田組の監督でもなく、ミュージカルの演出家でもなく、“ブラボーカンパニーの座長”なんです。以前マギーに「売れない劇団の座長であり演劇界で結果を残せていないことが、福ちゃんのガソリンになってるよね」と言われたことがある(苦笑)。キャパ100人の劇場を埋められない劇団の座長だから、ニックの気持ちはイヤになるほどわかる。片や、大きなバジェットの映画も作らせてもらって、アッキーやジェシーが主演するミュージカルの演出もやらせてもらっています。「次の映画の主演は目黒蓮くんです」となったら絶対に期待に応えなきゃいけないし、失敗できない。そうなると一気にシェイクスピアの精神性になります。2幕で彼が歌うような「仕事が次から次へとやってくる」というのも今まさに体験していて、プロデューサーからは脚本を書け脚本を書けと言われています。自分のことを天才だとは思わないけれど、シェイクスピアと同じ状況にはなっている。だから僕は『サムシング・ロッテン!』という作品は、本当にたまらないんですよ。身につまされるし、「わかるわー!」の連続。ヒット作を書かなきゃいけないシェイクスピアの歌も「わかるわー」だし、ニックの「俺、売れなきゃ」も「わかるわー」なので、ものすごく思い入れの強いミュージカルなんです。


――最後に、観に来る方へのメッセージを。

[中川] この物語は、ニック率いる劇団員たちが必死にヒット作を作ろうとしてミュージカルという新しい演劇を作っていく、その“ミュージカルを作ろうとしている姿”がミュージカルとなって展開していきます。その中には聞いたことのあるようなミュージカルのヒットナンバーや、シェイクスピアのセリフが散りばめられている。ミュージカルを大好きなお客さまにとっては「私たちがこの作品を観ないで誰が観るの?」という気持ちになるはず。ミュージカルを好きなお客さまに向けてお届けできるというのは幸せなことです。一方で、福田さんという知名度の高い方とご一緒することで、例えばミュージカルを普段観ない方に向けても扉が開いた。初演は、ミュージカルを好きな方が観ても「良かった」、そうじゃない方が観ても「何なのこれ!」となってほしい、全方位に向けた作品になってほしいと思って作りました。そして結果的に、とても喜んでいただけました。僕としても、自分の経験したことのないミュージカルだったし、きっとお客さまにとっても、今たくさんあるミュージカルのラインナップの中でもちょっとこの作品は別格だよねと思ってもらえると思います。実はかなり難しく高度なことをやっているのですが、そこをさらりと見せ、しかも福田さんはプラスαで全然違うことを入れてくる。今の時代だからこそのエンターテインメントを、エンタメに興味のある皆さんに届けていきたい。幅広いお客さまに楽しんでいただきたいと思っています。

[福田] 『サムシング・ロッテン!』は複数のプロデューサーからほぼ同時に「これは福田さんがやるべき」と勧められたんです。どんな話なのか聞いたら「売れない劇団の座長が、予言者に『これからはミュージカルが流行る』と言われてミュージカルを作るんだけど、予言者がちょっと間が抜けていて、次に流行るものは『オムレット』だと言うので、座長が必死になってオムレツのミュージカルを作る話」と言われて「よくそんな馬鹿な話がブロードウェイで成立したね!?」と言ったんです(笑)。でもたしかに俺にやらせてもらいたいなと思った。だって卵が出てきてオムレツになるというダンスを踊るんですよ、小学生が見ても楽しいじゃないですか。こんなアホなミュージカルあります!?

[中川] 本当にないと思う(笑)。でも真面目にやりましたね。

[福田] 真面目にやったよね。アッキーも言ったように、本当に老若男女、全方位楽しめる。お子さんには若干、シェイクスピアの勉強が必要になるかもしれないけれど、それもハムレットをオムレットと勘違いするということが伝わればいい。あとは、どこかで聞いたミュージカルの音楽がかかるから、本当に楽しいと思うんです。僕、バカみたいな作品ばっかりやっているからあまり知られてないのですが、実はすごくたくさんミュージカルを観ていて、劇団四季の作品も全作品観ていますし、ブロードウェイに行ったらまとめて何作品も一気に観ます。そのミュージカルへの愛情をすべて注ぎ込める作品なので、自分でやっていて本当に楽しいです。また、この作品は、ミュージカルファンだけでなく、シェイクスピアのコアなファンも楽しいですよ。シェイクスピアのセリフの引用はそのまま使わないと意味ないので、そこはいじらずに使っています。好きな人は細かく「うわ、何々のセリフだ」とわかってたまらないと思います!


――2025年版で、新しくなりそうな期待は、どんなところでしょうか、

福田 メインキャストがアッキーと瀬奈じゅんさんを除き大きく変わりましたから、新しいことのオンパレードだと思います。シェイクスピアをカズッキーが、ノストラダムスを禅さんがやる時点で、新しいものにしかならない予感があります。ぜひ期待してください!


――【脚本】ジョン・オファレル氏からのコメント

なお、この取材のあと、脚本のジョン・オファレル氏からのコメントも届いたので、そちらもご紹介しよう。

オファレル氏は「『サムシング・ロッテン!』は、私の心の中で本当に特別な存在です。これは実は、もともとイギリスでテレビコメディの脚本を書き、その後小説やノンフィクション本を執筆していた私にとって、初めての演劇作品なんです。ケイリー・カークパトリックと映画の脚本を書く予定だったのですが、その作業の最中に現実逃避をする中で彼が温めていたミュージカルの話をしだし、そこに意見を出しているうちに『じゃあ一緒に書いてみない?』とケイリーが誘ってくれたのです。その作品がなんとブロードウェイで2年間も上演され続けました。50代になって突然ブロードウェイミュージカルの脚本家としてデビューできるなんて、信じられない思いでした」と振り返る。
さらに今回の日本公演のために来日予定だそうで、「『サムシング・ロッテン!』の日本公演を観劇できるのを、本当に楽しみにしています。全く異なる言語で、そして何より日本の観客の皆さんがこの作品にどう反応するのかをこの目で見られるのは、とても貴重で特別な経験になるでしょう。実は私にとって『サムシング・ロッテン!』を海外で観る初めての経験になります。同じジョークが同じようにウケるのか、それとも日本ならではの大きな笑いが起きるシーンがあるのか。また、感動で涙する場所も同じなのか。観客の皆さんの反応を見るのが待ちきれません! 本当にワクワクしています。そして、皆さんの素晴らしい国を訪れることも楽しみにしています!」と日本公演への期待を語ってくれた。2025年版『サムシング・ロッテン!』、ぜひご注目を!


(取材・文:平野祥恵)

【 公演詳細 】

ミュージカル「サムシング・ロッテン!」
公演日:2025年 12月19日(金)~ 1月 2日(金)
会場:東京国際フォーラム ホールC

出演者:
中川晃教、加藤和樹、石川禅、大東立樹(CLASS SEVEN)、矢吹奈子、瀬奈じゅん
岡田誠、高橋卓士、横山敬 / 植村理乃、岡本華奈、岡本拓也、神谷玲花、小山侑紀、坂元宏旬、高橋莉瑚、高山裕生、茶谷健太、横山達夫、吉井乃歌、米澤賢人
小林良輔(スウィング)、七理ひなの(スウィング)

脚本:ケイリー・カークパトリック、ジョン・オファレル
作曲・作詞:ケイリー・カークパトリック、ウェイン・カークパトリック
演出:福田雄一